会社が決算をする際、在庫の評価をする必要があります。
その評価方法の一つである、売価還元法について紹介します。
株式投資そのものと言うよりは、決算書寄りの記事になります。
簿記1級で登場するような内容なので、簿記会計の知識がある前提の記事になります。
売価還元法とは
小売業を営む会社の決算書*1を見ると、売価還元法と言う単語が目に付くことがあります。
売価還元法は、先入先出法や平均原価法と同じく、在庫の評価を行う方法の一つであり、多品種を扱う小売業に向く方法です。
商品の種類別に原価を把握する必要がなく、似たような商品でグルーピングして原価を把握することが出来ます。
売価還元法には、原価法と低価法の2種類があるのですが、今回は原価法について解説します。
売価還元法の計算方法
先入先出法や平均原価法では、仕入の都度、各種商品の原価を計算します。
一方、売価還元法では、決算時にのみ原価を計算します。
一回で出来る分、少し面倒な計算が必要です。
計算の流れ
損益計算書に載る売上原価を求めるのが、売価還元法の計算のひとまずのゴールです。
計算の大まかな流れは、以下の4ステップです。
- 原価率を求める
- 期末商品原価を求める
- 棚卸減耗損を求める
- 商品評価損を求める
原価率とは
原価率と言うのは、
から求まる、原価と売価の比率です。
売価還元法では商品のグルーピングを行いますが、近しい原価率になりそうな商品群でグルーピングをする必要があります。
そして、グルーピングした商品群の平均的な原価率が分かれば、
の関係により、種々の原価項目を計算することが出来ます。
売価還元法は、この原価率をどうやって求めるかが最初のカギとなります。
原価率の計算方法
以下の図の中央は、原価計算ではお馴染みのボックス図です。
そして期首商品と当期仕入に対応する売価を、左に付記しています。
売価は原価より高くしないと基本的に商売にならないので、売価の縦幅は原価より少し長くしています。
この長さの比を、売価還元原価法における原価率とします。
したがって、売価還元原価法における原価率は
となります。
これにより、当期の平均的な原価率が分かるわけです。
売価と言うのは、要は商品の値札の額のことですが、一つ注意点があります。
それは、期中で一定とは限らないと言うことです。
そのため、売れ残っている商品については期末の値札の額、売れた商品については売れた時の値札の額(つまり売上)を足し合わる必要があります。
期末商品原価の計算方法
原価率が計算できれば、期末商品原価が計算できます。
どうすれば良いかと言うと、期末商品"売価"に原価率を掛ければ良いです。
期末商品"売価"であれば、在庫の値札の額を合計すれば求められそうですし、原価率は先ほど求めました。
しかし、実務上はそう単純にはいきません。
なぜなら紛失や盗難などにより、棚卸減耗が発生するからです。
そのため、在庫の値札の額を合計する"以外"のアプローチで、期末商品売価を調べる必要があります。
期末商品売価の求め方
原価と同様、売価でもボックス図の関係が成り立ちます(下図右)。
したがって、
が成り立ちます。
以上から、
により期末商品原価が求まります。
期末商品の求め方
期末商品原価が求まったので、損益計算書における売上原価を求めるまで後少しです。
先ほど求めた期末商品原価は、帳簿と実地とで在庫の数量が一致し、かつ仕入れた時と比べて価値が落ちていない場合のものです。
しかし実際は、棚卸減耗により在庫の数量が減っていたり、鮮度の劣化などにより価値が落ちる商品評価損が発生していることが多いです。
その為、棚卸減耗費と商品評価損を期末商品原価から差し引き、適切な期末商品に直す必要があります。
棚卸減耗費の計算方法
先ほど、棚卸で計上できる期末商品売価(期末実地売価と呼びます)と、先ほどボックス図で求めた期末商品売価(期末帳簿売価と呼びます)は、棚卸減耗の発生により一致しないことがあると説明しました。
逆に言えば、両売価の差異は、棚卸減耗に対応します。
後はこの差異に原価率を掛けて原価に変換すれば、棚卸減耗費が求まります。
商品評価損の計算方法
商品評価損を計算するには、棚卸した商品の正味売却価額を把握する必要があります。
ここで言う正味売却価額とは、商品の劣化などに伴う価値の低下を加味した原価で、これがそのまま貸借対照表の期末商品価額になります。
商品評価損は、以下のように求まります。
売価還元原価法のまとめ
- 売価還元法とは、先入先出法や平均原価法と同様に、在庫の評価方法の一つです。
- 原価率が同程度の商品でグループ化をして原価を計算するので、多品種を扱う小売業でよく使われます。
- 在庫の原価は、商品グループの期中の平均的な原価率と在庫の売価から計算出来ます。